我が国の原子力政策が地球を救う | 衆議院議員 森 英介

我が国の原子力政策が地球を救う

衆議院議員・工学博士 森 英介

世界のエネルギー問題

世界の人口は凄まじい勢いで増え続けている。一九五〇年には二十五億人だったのが二〇〇〇年には六十億人、二〇五〇年には九十億人を超えると予想されている。そして、地域別に見ると、これから先、人口が増加するのは、専らアジア、アフリカなどの発展途上地域である。こうした地域では、今のところ、先進地域に比べ、1人当たりのエネルギー消費量は格段に少ない。しかし、今後の経済成長に伴ってエネルギー消費量は増大する。このように、人口急増地域において、エネルギー消費量が増大していくのだから、世界のエネルギー需要は幾何級数的に膨らんでいく。たとえば、中国は、我が国の十倍の人口を有しているが、エネルギー需要はたかだか二倍である。それが二十年後には、四倍に上昇すると見られている。他方、私たち人類が克服すべき最大の課題は、京都議定書にも示されている通り、増大する大気中の炭酸ガスの問題にいかに対処するかである。そもそも、太古の地球は、炭酸ガスで覆われていた。しかるに、いつの頃か地上に植物が発生し、その光合成作用によって炭酸ガスが吸収固着され、次第に動物が生息できる環境条件が現出した。このような炭素を含有成分とする植物の遺骸が地殻の中に封じ込められて、千万年、億年単位で変質したものが石油、石炭、天然ガスなどの所謂化石燃料である。

ところが、近世になって、人類の手でこの化石燃料がどんどん掘り出され、エネルギーを取り出すために燃やされ、結果として、炭酸ガスが際限もなく大気中に放出されている。つまり、地球は、動物が生息できない太古の姿に戻りつつある。実際には、そこまで辿りつくずっと前の段階で炭酸ガスの増加に伴う温暖化現象によって地球環境は破局的な状況を迎えることになるだろうが。そこで、人類がこの地球上に末永く存続するためには、何とかしてこの流れを食い止めなければならない。つまり、大気中に放出される炭酸ガスの量を抑制するようにしなければならない。かてて加えて、化石燃料は、プラスチックスなどの生活必需品、情報機器など文明社会に不可欠な様々な工業製品の大切な原料でもある。単にエネルギーを取り出すために燃やしてしまうのは、あまりにも勿体ない。これら二つの理由から、化石燃料をエネルギー源としての用途に供するのは極力控えるべきである。結論として、私たちは、今後、エネルギー源としての化石燃料の利用を抑制しつつ、しかも、増大するエネルギー需要を賄っていかなければならないことになる。

代替エネルギー源としての原子力

世界で使われているエネルギー源の割合を見ると、現在、化石燃料が九割近くを占めている。あとは、原子力、水力がそれぞれ六%台である。今後は化石燃料への依存度をなるべく減らしていかなければならないが、この目標に向け、化石燃料に取って代われるエネルギー源と言えば、結局のところ、原子力を措いてない。炭酸ガス問題の見地からは、水力も好ましいエネルギー源である。世界中で利用できる水力は最大限利用すべきだ。しかし、水力発電所は水源のあるところにしか立地させられない。また、別な意味で環境への負荷が大きい。そのため、水力の利用を拡大するにしても自ら制約がある。このほか、燃料電池、水素、風力、太陽光、地熱など様々な新エネルギーの開発研究も進められている。これらの新エネルギーも活用できるものは、大いに活用すべきである。しかし、これらはあくまでも補完的なエネルギーとしての役割を期待されているのであって、石油に取って代われるようなポテンシャリティを持ったエネルギー源ではない。せいぜい省エネで捻出できるエネルギー量と概ね同程度のスケールのエネルギー源である。従って、今後は世界のエネルギー需要を賄うエネルギー源の中で原子力の占める比重が次第に大きくなって来るはずである。又、そうならなければ、人類の将来はない。因みに、国際原子力機関(IAEA)は、昨年七月、アジアでの原子力発電所による発電量が二〇三〇年には現在の二~三倍になるとの見通しを発表している。なお、ここでは一口に「原子力」と称しているが、その中には、既に商業的に利用されている「熱中性子炉」、未だ原型炉段階の「高速増殖炉」、更に、将来の開発目標である「核融合炉」をも含めている。熱中性子炉のウラン燃料の利用効率を前提とすると、ウランの可採年数は六〇~七〇年程度と見られている。しかし、高速増殖炉によれば、ウランの利用効率は熱中性子炉の百倍以上になる。それゆえ、ウランを全部高速増殖炉で、燃やしたとすれば、計算上、千年はもつことになる。更に、核融合炉の実用化を達成できれば、原料となる重水素は海水中に殆ど無尽蔵に存在するので、事実上、エネルギー資源の枯渇を心配する必要はなくなる。そこで、当面は現行の熱中性子炉で対応する。そして、数十年後を目処に高速増殖炉を軌道に乗せる。その間平行して核融合炉の開発を進め、なるべく早期実現を目指す。これが原子力利用推進の最適のシナリオと考える。

我が国の原子力政策

二〇〇〇年十一月に原子力委員会において策定された「原子力開発利用長期計画」によれば、国民の理解を得つつ使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用していくことを国の基本的考え方としている。さて、使用済燃料を再処理して取り出されたプルトニウムはウランと混ぜて混合酸化物燃料(MOX)に加工される。これは、利用効率の面から言えば、高速増殖炉の燃料として使うのが一番望ましい。しかし、当面は熱中性子炉の燃料として再利用される。いわゆる「プルサーマル」であるが、とりあえずこのような燃料サイクルを確立できれば、ウランの調達を海外に全面依存する我が国にとってはウランの所要量や濃縮の費用を減らすことができ、経済的メリットをもたらすと共にエネルギーセキュリティー上の効果もある。そればかりでなく、高速増殖炉への供用に先立って、MOX燃料の取
扱いについてのノウハウの蓄積ができるという効能もある。但し、そうは言っても、プルトニウムのリサイクル利用の真価は、高速増殖炉で使われてこそ十全に発揮される。原型炉「もんじゅ」で大変残念な事故があったが、その痛手を乗越えて高速増殖炉の開発が促進されることを期待する所以である。なお、使用済燃料の処分の仕方について、米国と同様、再処理をせずに直接処分(ワンススルー)したらどうかという意見もある。しかし、直接処分では、プルトニウムも含めて埋設することになり、環境に対する負荷が高くなる。それに、そもそも米国は海外から石油を輸入して、自国内の石油は採掘せずに天然に備蓄しているような国である。我が国のようなエネルギー資源小国が米国の真似をしたら間違いなく国益を損うであろう。

むすび

我が国の原子力政策は、原子力の平和利用を推進すると共に、原子燃料サイクルの確立を目指すことを基本としている。エネルギー資源に恵まれない我が国としては、言わば、必然的な方向性であったと考える。その方針の下で、原子力の利用を推進してきた結果、今日では、我が国の発電電力量の三割以上を原子力が占めるに至った。また、高速増殖炉や再処理関連技術についても世界でもトップクラスの域に近づきつつある。更に長期的展望に立って、核融合の開発にも真剣に取組んでいる。

目下、日米欧露韓中の6極で国際熱核融合実験装置“ITER”の設計制作を進めているが、その本体を我が国に建設すべく、仏国との間で熾烈な誘致合戦を繰り広げているところである。このように我が国の原子力政策はめざましい成果を挙げてきており、その基本路線は今後とも継続すべきである。そうすれば、やがて人類が直面する地球規模の課題の解決にも我が国が重要な役割を果すことになろう。


東京財団の政策研究誌「日本のちから」より 2004年8月