地球上に人類が長く存続するためにはどういう道を選ぶべきか | 衆議院議員 森 英介

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地球上に人類が長く存続するためにはどういう道を選ぶべきか

衆議院議員  森 英介

もり・えいすけ 昭和23年生まれ。東北大学工学部卒業。川崎重工業㈱入社。同59年、工学博士号取得(名古屋大学)。平成2年、衆議院議員初当選、8期。法務大臣、厚生労働副大臣、衆議院厚生労働委員長、自民党組織運動本部長など歴任。現在、衆議院原子力問題調査特別委員長、自民党雇用問題調査会長、千葉県第11区選出。

 産業革命を経て登場した西欧型の機械文明は、世界を席巻しつつあります。しかし、近年その恩恵ばかりでなく弊害も顕在化してきました。人類がこれからも長く地球上に存続して行くためには、これまでの歴史を踏まえ、かつ、未来を見据えた政策を進めていくことが肝要です。

 さて、人類の文明の起源については、諸説あります。7000年ほど前にチグリス・ユーフラテス川の流域にある民族が住みついて、農耕と牧畜を始めました。後にメソポタミア文明と呼ばれるようになった人類の営みですが、かつてはこれが人類の文明の起源と考えられていました。しかし、近年の発掘調査により、中国の長江流域では、それよりはるか前、1万3000年くらい前から稲作が行われていたことがわかってきました。

 厳密な時期や地域の解明は今後の研究に委ねるとして、目安としては、人類の文明は、今から1万年か2万年前に始まったといって差し支えないでしょう。

 その1万年か2万年という長い時の流れの中で、地球上の様々な地域で様々な文明が勃興し、衰退しました。しかし、その人類の営みが大自然(神)との間で相克を生じたことはなかったのではないでしょうか。つまり、大自然の方から見れば、人類の営みは、殆ど無視できる程度のものだったのではないかと思われます。

 ところが、18世紀後半にイギリスを皮切りに欧米において産業革命が起って以来、状況は一変します。産業革命を契機に登場したいわば西欧型機械文明は、大量生産、大量消費社会を生み出し、人々の生活を飛躍的に便利に快適にしました。同時に医療や衛生観念の進歩・普及をもたらし、人々の平均寿命は大幅に伸びました。これには、乳幼児の死亡率の低下も大きく寄与しています。その結果、世界の人口は、幾何級数的に増加しつつあります。この世界人口の爆発的増加と大量消費社会の拡大とが相俟って人類のエネルギー需要や食糧需要もやはり幾何級数的に増加しています。

 ここでは、エネルギーについて少し詳しく述べます。世界の一次エネルギー供給の構成を見てみると、現状では、石炭、石油、天然ガスのいわゆる化石燃料が7、8割を占めています。化石燃料は、有限な資源です。今の調子で濫費し続けたら、2~300年で枯渇するだろうと予測されています。化石燃料はエネルギー源としても有用ですが、石油化学工業の貴重な原料でもあります。人が一旦経験してしまった便利で快適で清潔な生活を逆戻りさせることは容易なことではありません。今の時代に生きている者にとっては、化石燃料のない世界というのは、想像することすら困難です。

 またエネルギーを取り出すために化石燃料を燃やすと、二酸化炭素を排出します。産業革命以降、エネルギー源として化石燃料を用いるようになってから、大気中の二酸化炭素濃度は、ウナギ登りに上昇し続けています。産業革命以前は、1万年もの長きに亙って、250ppmから280ppmの範囲内で概ね横這いで推移していたのに、産業革命を境ににわかに上昇し始め、近年では400ppmを超えてしまいました。よく知られているように二酸化炭素は温室効果ガスですから、二酸化炭素濃度の増加に伴い、地球の温暖化や異常気象が次第に顕著になってきました。因みに、北極の氷河の容積は、1980年頃からの30年間でおよそ80%減少してしまったということです。

 温暖化が引き起こす問題をもう一つ挙げれば、海水面の上昇です。氷河の溶解などで海水が増量する上に熱膨張によって海水の体積が増大するために、今世紀末には、海水面が1m上昇すると言われています。そうなると、例えば、インド洋にある平均海抜が1mの島嶼国、モルジブ共和国などは、水没してしまいます。

 このように、産業革命を経て登場した西欧型の機械文明は、たかだか200年で大自然に対して有意な影響を及ぼすようになりました。すなわち、有史以来、人類の営みが初めて大自然との相克を生ずるようになったのです。

 更に原始の時代に遡ってみましょう。地球が誕生したのは46億年前と言われています。その頃の地球を取巻く大気は殆どが二酸化炭素によって占められていました。それから長い時間の経過と共に地球上に何かの拍子に微生物や藍藻類が生れ出て、これらの光合成作用によって大気中の二酸化炭素と水とから酸素と有機物とが生成されるようになりました。こうして途方もなく長い年月を経て、大気中の二酸化炭素が減少し、酸素が増加し、現在のような人類や様々な生物が生存可能な組成の大気が形成されたわけです。他方、光合成によって生じた有機物が地中に取り込まれ形質変化したものが化石燃料です。

 従って、産業革命以降の人類は、何十億年もかかって生成した化石燃料を恣に掘り出し、どんどん燃やして、際限もなく二酸化炭素を大気中に放出していることになります。いわば地球の大気を急速に人類の生存に適さない太古の時代に戻しつつあるわけで、人類は自分の手で自分の首を絞めていると言っても良いでしょう。

 以上のことから、私は、エネルギー源としての化石燃料の利用を今後極力抑制していかなければならないと考えるものです。

 それでは、化石燃料の代替エネルギーとなりうるエネルギー源は何か。結論的に言えば、私は、核分裂、核融合の原子力エネルギーしかないと考えます。

 もちろん、こうした考え方に批判的な意見も多いことは承知しています。2011年3月に起った福島原子力発電所のあの戦慄的な事故を目の当たりにすれば、原子力エネルギーの利用に否定的になるのも無理もありません。しかし、このまま化石燃料の濫費を続けて行けば、人類の前途には制御不能な様々なリスクが待ち受けていることは、先に述べた通りです。

 原子力を使わなくても太陽光や風力などの再生可能エネルギーがあるではないかという主張もあります。しかし、太陽光発電や風力発電は、エネルギー密度が低く、出力も不安定で、その上、経済的にも自立できず、本質的に化石燃料の代替エネルギーとはなりえません。といっても、太陽光や風力の利用価値がないわけではなく、分散型のエネルギー源としては大いに活用すべきです。

 更に、水素やバイオマスエネルギーなども有望なエネルギー源です。しかし、水素を本格的に利用しようとすれば、そのための社会インフラ整備が必要であり、バイオマスエネルギーの実用化に当っては原料調達がネックになるなどそれぞれに克服すべき課題があります。それでも。自動車の駆動用エネルギーについては、出来るだけ早く化石燃料から水素に置き換えて行くべきと考えます。

 このように各エネルギー源の特性、得失を比較検討した結果、上述の如く化石燃料の代替エネルギー源となりうるのは、特に発電用としては、原子力のみという結論に達したものです。但し、言うまでもなく、原子力にも問題点があります。一つは、超長期に亙って人体や生物に有害な放射性廃棄物を生み出すこと、もう一つは、一旦事故が起こると、凄まじい被害をもたらすことです。しかし、そうした問題点と背中合せにあるリスクは、人智によってその確率を十分小さくすることが出来ます。今のまま化石燃料を使い続けた結果もたらされる制御不能なリスクとは全然違います。

 現在、我が国の原子力発電所は、全て停止しています。そして、原子力規制委員会において各原子力発電所の再稼働の適否が審査されています。私は、そこで合格と判断された原子炉に関しては順次再稼働して行くことが望ましいと考えていますが、それは単に経済性の面からだけではなく、以上のような考えに基くものです。

 なお、ここでは、エネルギーについて述べてきましたが、人類が生存する上で必要不可欠ものは他にもいろいろあって、食糧、水、ある種の鉱物資源などが挙げられます。これらも、世界人口の爆発的増加に伴い需給が逼迫して来ることが予想されますので、そうした必要不可欠ものをどうやって確保するかは、世界全体の課題です。

 この課題への取組みにあたって留意すべきは、必要不可欠なものの消長は、互いに相関関係があって、しかも往々にしてトレードオフの関係、すなわち、何かを確保しようとすると何かが消耗して行く関係にあるということです。一例を挙げると、食糧を確保するために農畜産物を増産すると、大量の水が失われます。それゆえ、様々な因子を考慮に入れた多変数の多元連立方程式を解くような総合的アプローチが必要になるということです。脱原発だとか炭酸ガス25%削減だとか一点豪華主義的あるいは一次方程式的な発想では、思わぬところにシワ寄せが行って、必ず墓穴を掘ることになるでしょう。

マンスリーIIC八月号 三面「話題の論点」より