福島原発による放射能汚染問題についての所見 | 衆議院議員 森 英介

HOME > 福島原発による放射能汚染問題についての所見

福島原発による放射能汚染問題についての所見

森 英介

放射線量の測定は、国の責任において一元的に実施すべきであった。

福島原発の事故が起ってからの政府の対応には多くの問題がある。中でも、最大の過ちは、放射性物質が外部に放出された時点で、放射線量の測定を国の責任において一元的に実施するという措置をとらなかったことである。大気中も地表も地中も内水面も海洋も、更に、農・畜・水産物も、全て国の責任で放射線量の測定を実施すべきであった。もちろん、国の機関だけでは、測定機材も人員も到底足らないだろう。そこで、必要に応じて、測定機材と能力を有する都道府県や大学、公的あるいは民間の研究機関、電力会社などの民間企業の協力を求め、国が策定した基準に基づいた測定作業を委託すればよかったのである。その際、地図上でメッシュを切って測定点を設定し、得られた測定データから天気図の如く放射線量の等高線が描けるように、また、経時変化がわかるようにしておくべきであった。
ところが、実際には、まるでバラバラの対応であり、たとえば、大気中の放射線量は、文科省が測定しているが、飲用水や農産物・畜産物などは都道府県任せ。千葉県の場合、更に、農協に丸投げされ、サンプルは、自主的にと言うと聞こえは良いが、殆ど恣意的に拠出されている。黒と判定されるとダメージが大きいので、生産者はなるべくサンプルを拠出しないで済ませようとする。このようなやり方では、スポットの放射線量しかわからず、面的な放射線量の分布や経時変化は全く捉えられない。
従って、政府高官がいくら国民向けに、汚染されたものは流通していないので、安心してくださいと言っても、たまたま検出されたものが出荷停止になるだけで、セイフガードがまるで機能していないことは明白であるから、誰も信じない。
風評被害を防ぐ上にも、白黒はっきりさせることが何より重要である。国の責任において放射線量の測定を強制的に実施し、黒となった地域、産物については、国が補償すれば良いことである。

国民に対する科学的な説明がまったく欠如している。

福島原発から放射性物質が大気中に放出されたのは、3月12日~14日のベントと水素爆発によって放出されたものが殆ど全てである。それが、3月21日、22日の雨で地表に降下した。それ以降の放射性降下物は、殆どゼロであり、その後いろいろなところや作物、食品から放射性物質が検出されるが、すべてこの時の降下物に由来する。
まず、雨が降った直後に関東地方の浄水場で基準を超えた放射性物質が検出された。次いで、ホウレンソウや小松菜などの葉物野菜で検出された。この頃は、放射性ヨウ素が主体であった。しかし、半減期が短い放射性ヨウ素(I-131 半減期8日間)は、急速に減衰して行き、2、3週間後には放射性ヨウ素がらみの問題は収斂して行く。
 ところが、5月中旬頃から、茶葉や牧草に放射性物質が検出されるようになった。地表に堆積した放射性物質がそうした植物の芽や根から吸収されたものであるが、この放射性物質もやはり3月下旬の降下物である。そして、この頃になると、半減期の長い放射性セシウム(Cs-137 半減期30年、Cs-134 半減期2年)が主となる。
 更に、7月中旬になると、牛肉から基準を超えたセシウムが検出された。年越しで屋外に置かれていた稲わらに放射性物質が降り注ぎ、その稲わらを牛が食べたためである。
 このように一連の農作物等の放射能汚染は、全て3月下旬に地上に降り注いだ放射性物質に起因するものである。換言すれば、原発から放射性物質が放出された時点から、時間の経過と共に、こうした一連の問題が起りうることは、概ね予見できた。
 それにも拘らず、政府は、全く何の対策も講じずに、場当たり的な対応に終始した。それどころか、国民に対して「今後起りうること」についての説明も一切なかった。そのため、国民の多くは、何か起る度に、新たな原因による新たな問題が起ったかのように受止め、不安に襲われた。国民の不安も風評被害も、政府がそれを助長したと言っても過言ではない。なお、的確な対策を講じるためには、何はさておき、「国の責任において一元的に放射線量の測定を実施する」ことが必要不可欠であった

いわゆる「セシウム汚染牛肉」について

 ここで、目下、国民の重大関心事であるセシウム汚染牛肉について言及しておく。ここまで問題が拡大してしまったのは、偏に政府の責任であり、到底許されるものではない。しかし、それはそれとして、セシウム汚染牛肉というと、いかにも禍々しい印象を受けるが、実際には、食べても全く問題はない。放射性ヨウ素を摂取すると、甲状腺に蓄積して、特に乳幼児の場合に、甲状腺癌を惹き起すことがあると言われている。一方、放射線セシウムは、仮に摂取してしまっても、健康影響は殆どない。なぜなら、放射性物質は、壊変するときにβ線やγ線などの放射線が放出されるが、半減期が長いということは、単位時間当りに放出される放射線が少ないということなのである。従って、セシウムが体内にある場合であっても、内部被ばく量は無視できる程度のものであり、しかも、セシウムは、2か月もすると、体外に排泄されてしまう。
 子供たちに牛肉を食べさせてしまって、大層気に病んでいるお母さんたちが多いが、全然心配することはない。政府がかかる科学的知識の普及に努めていないのは、怠慢の極みである。